武蔵野徳洲苑における音楽療法
栗田 明
音楽療法は第一次、第二次大戦後の負傷兵の慰問していた音楽家らによって始められ、我が国に導入されたのは1960年頃です。1997年3月に日本音楽療法学会が発会し現在会員数は約6000名で、毎年1000人以上の音楽療法士が誕生しています。音楽療法は音楽療法士により全国各地で児童から高齢者までの手術前後の人の不安の軽減や疼痛の緩和や集中治療室でのストレスの緩和やリハビリテーションなどで利用されています。我が国は現在65歳以上の高齢者は約3000万人を占め、そのうち認知症を有する人は約460万人(15%)で、10年後には約675万人(21%)に増加すると予測されています。当施設においては認知症の進行を予防するために音楽療法を積極的に取り入れています。
音楽にはリズムがあり、リズムが心臓や脳に音刺激として働きホメオシターシス(恒常性保持機能・自然治癒力)という健康を保持する機能を活性化して音楽を聴くと元気になります。認知症の人の思考能力は衰えていても感情は残っており、周りの人は誰なのか理解できなくても、寂しさや、怖さやイライラする感情は残っています。したがって身内の顔しか分からないのに昔の歌は覚えている高齢者をよく見かけます。我々の五感は虫の声や鳥の声で季節を感じ、梅や桃で臭覚を感じ、焼き芋やかき氷で味覚をどんぐりや銀杏を見ると触覚を感じます。
言葉をメロディーに乗せると、言葉がメロディーに乗って歌詞が出てくるようです。近年脳のスキャン検査で音楽は脳の様々な部分に働きかけることが分かってきました。我々が音楽療法の効果を調べたところ、音楽療法士による音楽療法に月1回、少なくとも1年間に10回以上参加している75歳以上の後期高齢者の入院率や死亡率は、非参加者と比べて少ないことが分かりました。そのメカニズムを長時間記録可能なホルター心電計を用いて調べたところ、音楽療法を受けた後期高齢者の副交感神経能は、交感神経能に比べて亢進しており、尿中のカテコラミンは低値でした。心臓発作や不整脈は交感神経能が副交感神経能に比べて亢進している場合に発生しやすいので、音楽療法は認知症の他に循環器系の疾患にも有用であると思われます。
現在当施設では2名の音楽療法士(国立音大卒)による音楽療法を毎月1回と職員による歌唱を毎月3回行っているので、ご来苑のさいに是非ご見学下さい。
- 参考資料
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- (1) Kurita, A. et al: Music therapy in elderly cerebral patients. J Natl Def Med Coll. Vol.32, 3:143-152, 2007
- (2) 国立音楽療法研究所(編):音楽療法の現在 人間と歴史社(東京)2007